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HOME > 文部淫画省 > 鬼畜文学選集 > 『宴のビーナス』(第1夜)

『宴のビーナス』(第1夜)

 優子は歯噛みした。
 ドジを踏んだのだ。
 彼女の名前は古谷優子。21歳。
 手入れの行き届いた深い栗色の長い髪、吸い込まれそうなほどに綺麗な瞳と、口づけを拒む男はいないだろうと断言できる塗れた唇。
 彼女の顔立ちは、それほど完璧な美の極致だった。
 もちろん、その体も誰かの手によって創られたのではないかというほどの美しい流線で構成され、豊満な胸と引き締まったお尻は、全ての女性に嫉妬心を呼び起こすことだろう。
 そんな彼女は、駆け出しの女探偵だ。
 と言えば、その活躍も格好良さそうだが、実のところ《ナイトヘッド》という興信所に勤めたばかりの新人にすぎない。
 今回も、先輩の助手として車の中で待機しているだけのはずだった。
 仕事の内容は、さる大手銀行の不正融資に絡む証拠集めだ。
 融資された側の会社の役員の行動を観察し、融資された資金が私的に流用された証拠を集めて欲しいとの、ライバル会社からの依頼だった。
 そして、今日は正にその会社の社長を張っていたのだが、自宅に帰らずに郊外の別宅に入ったまま出てこないため、愛人宅かもしれないと、先輩が潜入したまま戻って来なかったのだ。
 そうこうしているうちに、次々と何台かの高級車が敷地内に入っていき不安になった優子は、うかつにも車を降りて敷地内に忍び込んでしまったのだ。
 同僚と連絡が取れなくなったら事務所に指示を仰ぐという、マニュアルを忘れていた軽はずみな行動だ。
 そしてまだ基本しか教わっていない優子は、常に背後に気を配るということもしなかった。
 ただただ、先輩が心配で気が急いていた。
 どこからか家の中に入れないかと壁づたいに半周した辺りで、背後から二つの影が優子に近づいていた。
「ウッ!」
 その影から手が伸び、優子の口を布が塞いだ。
 この匂いには憶えがある。
 研修で試しに嗅がされたクロロフォルムの匂いだ。
 そして思い出すのと同時に、優子は気を失っていた。

 ………………………………………。
「うっ……、ううん………………」
 優子は目を醒ました。
 辺りは薄暗く、優子の意識もボンヤリと霧に包まれていた。
「気がついたかね?」
 声のした方に目を向けようと優子が横になっている自分の体を起こそうとすると、両手首に痛みが走った。
 後ろにまわされた手首に、冷たく硬い金属の感触があった。
 手錠だ。
 しかも、足首にも掛けられていた。 
 混乱しながらも顔を向けると、そこにはターゲットの社長の姿があった。
 しかも、その後ろには全裸で天井から両腕を鎖で吊り下げられた先輩の姿があった。
 全身を何かで叩かれた痕がついている。
「綾さん!!」と思わず優子は叫んだ。
 そしてハッキリと目覚めた優子は、この部屋に窓が無いことに気がついた。
 そう、ここは地下室なのだ。
 しかも、明らかに複数の人間がいる気配がする。
 綾と呼ばれた女性が弱々しく顔を上げた。
「優子ちゃん………」
 村上綾。27歳。
 優子と比べれば数段見劣りしてしまうが、それでも美人と呼べる彼女のその表情は苦痛に歪んでいた。
「まったく、せっかくのパーティーを邪魔するとは、無粋な方達だな」と社長が口を開いた。
 周りでは、クスクスと下卑た男達の笑い声がする。
「な、なんのつもり、これは!?」と、優子は強い口調で訊いた。
 すると社長は、
「今日は、定例の幹部会でね。いつもは、それぞれが獲物を持ち込むんだが、自分達から来たのは初めてだよ」と答えた。
「な、なんのこと? 何を言ってるの!?」と優子は、さらに訊いた。
 途端に、近くに立っていた男に、顔を踏みつけられた。
 優子にとっては、自慢の顔をだ。
「質問するのは、私達の方だよ、お嬢さん。数日前から社長をつけ回していた理由を訊かせてもらおうか」
「そんなこと……」
 優子が言いかけると、さらにグリグリと顔を強く踏みつけられた。
 優子は歯噛みした。
 ───こんな風に、顔を踏みつけられるなんて………。
 痛さよりも、自分の顔を汚されるのが辛かった。
 だが、優子の苦しみは、これから始まる──────。

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